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2016年12月30日

かれらにはわからな

「東の商人だと主張した男さ。そいつはたくみにヴォードゥ家の信用を得て、ヴォードゥの連中をほめそやしたんだ。そいつがすっかり連中にとりいったときには、ヴォードゥの面々は本気でみずからの王国をきりまわし、残りのトルネドラから独立できると信じちまった。だが物業二按な、ヴァラナはぬけめのない男だぜ。やつはコロダリン王と話をまとめたんだ。まもなくヴォードゥにはミンブレイトの騎士たちがうようよしだして、目にはいるものを手当たりしだいに盗みはじめた」税関員は焼け焦げた建物の一角を指さした。「ほらな? 連中の一団がここにやってきて、建物を荒しまわり、火をつけたんだ」
「ひどい話ですね」シルクは同情した。「その自称商人がだれのために働いていたのか、つきとめた者はいるんですか?」
「トル?ヴォードゥの腰抜けどもがつきとめなかったのは確か公屋貸款だが、おれはやつをこの目で見たとたんにわかったよ」
「ほほう?」
「やつはリヴァ人だ。つまり、すべてはベルガリオン王のさしがねということだな。かれは昔からヴォードゥ家の連中を憎んでいたから、北部トルネドラにおけるかれらの勢力を根絶やしにするためにこの計画を立てたんだ」税関員は陰気に笑った。「しかし、ベルガリオン王もその報いはうけている。かれらは王にセ?ネドラ皇女との結婚を強制したし、皇女はかれの生活をみじめなものにしてるから雀巢奶粉な」
「その男がリヴァ人だとどうしてわかったんです?」シルクは興味ありげにたずねた。
「簡単さ、ラデク。リヴァ人は何千年もリヴァの島で孤立していた。血族結婚が多いせいで、いろんなたぐいの欠陥や奇形が出てきてる」
「そいつは奇形だったんですかい?」
 税関員は首をふった。「おかしかったのは目なんだ。色がまるでなかったんだ――真っ白なんだ」男はみぶるいした。「見るとぞっとしたよ」男は毛布をさらにきつく巻きつけた。「悪いが、ラデク、おれはここにいるとこごえちまう。あったかい建物に戻るとするよ。おまえも友だちも行っていい」そう言うと、税関員はそそくさと暖炉のある建物へひきかえしていった。
「興味をそそられる話じゃないですか?」一行が馬を走らせはじめると、シルクは言った。
 ベルガラスは額にしわをよせていた。「次の問題は、この神出鬼没の白目の男がだれに雇われているかということだ」
かれらにはわからな

「ウルヴォンでしょうか?」ダーニクがほのめかした。「ひょっとするとウルヴォンは北にハラカンをやり、南にナラダスをやったのかもしれませんよ――どちらもできるだけの混乱を引き起こそうとしています」
「かもしれんな」ベルガラスはぶつぶつ言った。「だが、そうではないかもしれん」
「ねえ、ケルダー王子」セ?ネドラが手袋をはめた片手でマントの頭巾をうしろへはらいながら言った。「そうやってぺこぺこへつらったり、鼻水をすすったりしているのはいったいなんのためなの?」
「性格描写だよ、セ?ネドラ」シルクは気取って言った。「ボクトールのラデクはいばりくさったまぬけだったんだ――金持ちであるかぎりはね。貧乏になったいまは、その正反対。それが人間の性《さが》なんだよ」
「でも、ボクトールのラデクなんて人間はいやしないわ」
「もちろんいるさ。たったいま見たじゃないか。ボクトールのラデクは世界中の人々の記憶のなかに存在するんだ。多くの点で、かれはあそこにいたいばった日和見主義者よりも現実的存在なんだ」
「だけど、ラデクはあなたでしょ。あなたがかれをつくっただけじゃない」
「たしかにそうだ。おれはむしろかれを誇りに思ってるよ。かれの存在、かれの素性、かれの全経歴はおおやけの記録に残るしろものなんだ。きみよりかれのほうが本物なんだ」
「そんなのおかしいわ、シルク」セ?ネドラは抗議した。
「それはきみがドラスニア人じゃないからさ、セ?ネドラ」
 数日後、一行はトル?ホネスについた。白い大理石の帝都は凍てつく冬の日差しの中できらめいていた。彫刻をほどこした青銅の門を守る軍団兵たちは、例によってきびきびして、鎧も兜もぴかぴかに磨きこんである。ガリオンとその友人たちがひづめの音高く、大理石舗装の橋を渡って門に近づくと、警備隊の指揮官がセ?ネドラを一目見るなり、敬礼がわりに握りこぶしでぴかぴかの胸当てをたたいた。「皇女さま」指揮官は挨拶した。「おいでになられるとわかっていれば、護衛の者をやらせましたのに」
「いいのよ、指揮官」セ?ネドラはうんざりしたように小さな声で答えた。「部下のひとりを先に宮殿へやって、わたしたちがここにいることを皇帝に知らせてもらえる?」
「ただちにそうします、皇女さま」指揮官はふたたび敬礼すると、わきにどいて一行を通した。
「いいかげんトルネドラの人たちにもきみが結婚していることを忘れないでほしいもんだな」ガリオンはいささか機嫌をそこねてつぶやいた。
「どうかして、ディア?」セ?ネドラがたずねた。
「いまのきみはリヴァの女王なんだということが、いのかい? かれらがきみを〝皇女さま?と呼ぶたびに、ぼくは取り巻きか――従僕かなんかみたいな気分になるよ」
「ちょっと気にしすぎじゃない、ガリオン?」
 ガリオンはにがにがしげにぶつくさ言った。まだ腹の虫がおさまらなかった。
 トル?ホネスの大通りは広く、両側には誇り高いトルネドラの名士たちの家が並んでいた。そうした家々の正面には、円柱や彫像がこれみよがしにところせましと置かれており、通りをいく贅沢な服をきた豪商たちは、値段もつけられないほど高価な宝石で身を飾りたてていた。シルクはかれらを横目で見ながらそばを通りすぎ、自分のみすぼらしいすりきれた服をうらめしげに見下ろしてためいきをついた。
「また性格描写、ラデク?」ポルガラおばさんがたずねた。
「ほんのちょっとだけね」かれは答えた。「もちろん、ラデクもうらやましがるでしょうが、正直なところ、おれもはでな装いが恋しくなってきたんです」
「いったいどうやってそういう架空の人物を使いわけてるの?」

Posted by きはらったようす at 16:29│Comments(0)
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