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2017年05月09日

むだにしたんだ


「ふざけてるのか?」
 ヴェルヴェットは茶色の目を見開いて、おおげさに無邪気な表情をつくった。「わたしが?」
 シルクはぶつぶつ言いながら廊下へ出ていった。
 ヴェルヴェットは笑って、窓のそばのクッションの山にすわっているセ?ネドラに歩みよった。ガリオンはトル?ホネスを発ってからの数週間で彼女たちふたりがすっかり親密になったのに気づいていた。ポルガラはつねにひとりでいることに満足しきって見える女性だったから、大部分の女性が女同士のつきあいを心から望んでいることが、ガリオンにはよくのみこめていなかった。サディが小さな緑色の蛇に餌《えさ》をやっているあいだ、ふたりはクッションにならんですわり、髪をとかして旅のほこりをはらっていた。
「どうしてあんなにかれをからかうの、リセル?」セ?ネドラが燃えるような髪をくしけずりながらたずねた。
「これでおあいこですのよ」ヴェルヴェットはいたずらっぽくほほえんだ。「わたしが子供だったころ、ケルダーにはいつもさんざんからかわれていましたの。今度はわたしの番ですわ」
「かれをぷりぷりさせるには、なにを言えばいいのかいつもちゃんとわかっているみたいね」
「ケルダーのことは知りぬいていますわ、セ?ネドラ。もう何年も観察してきましたもの。弱点も全部知っているし、どういうところに一番神経をぴりぴりさせるかも知っています」蜂蜜色の髪の娘は目をなごませた。「なにしろ、ドラスニアの伝説的人物でしょう。〈学園〉ではすべての研究がかれの偉業に捧げられているんです。わたしたちはこぞってかれと張り合おうとしますけれど、あの抜群の才覚にかなうものはひとりもいませんわ」
 セ?ネドラは髪をとく手をとめて、思案げにじっと友だちを見つめた。
「なんですの?」ヴェルヴェットが見返した。
「ううん、なんでもないわ」セ?ネドラはふたたび髪をとかしはじめた。
 砂漠の夜はおどろくほど寒かった。空気がからからに乾燥しているので、昼間の熱波は太陽が沈むと同時に蒸発してしまう。カーシャから夜明けの鋼色の光のなかへ出たとき、ガリオンは本当に体がふるえているのに気づいた。しかし、九時ともなると、焼けつく大陽がアラガの不毛地帯をふたたび炎熱地獄に変えていた。一行は正午近くに砂漠の西のへりにある丘のふもとについて、丘をのぼりはじめ、おかげでそのすさまじい暑さから逃れることができた。
「ラク?ウルガまではどのくらいあるんです?」サディはふたたび先導役をになったタジャクにたずねた。
「一週間ほどだ」
「クトル?マーゴスのこのあたりはじつに広大ですなあ」
「大きな国だからな」
「それになにもないところだ」
「よくまわりを見ればそうでもない」
 サディは物問いたげにタジャクを見た。
「たとえば、あの峰」タジャクは西の空を背景にうかびあがるぎざぎざした岩石地帯を指さした。黒装束のマーゴ人がひとり、馬にまたがってかれらを見ている。
「いつからあそこにいたんでしょう?」サディはきいた。
「一時間前からだ。おまえは上を見るということをしないのか?」
「ニーサでは、わたしどもはいつも地面を見ているんですよ。蛇の民ですから」
「なるほど」
「あの男はあそこでなにをしているんでしょう?」
「おれたちを見張っているのさ。ウルギット王はよそ者の跡をつけさせるのが好きなんだ」
「面倒なことになりやしませんか?」
「おれたちはダガシだぜ、ニーサ人。ほかのマーゴ人がおれたちに面倒をかけるはずがないだろう」
「またとない案内役にめぐまれましたよ、タジャクさん」
 その次の週、一行が馬で通過した地帯は岩だらけで、草木はほんの申し訳程度に生えているだけだった。ガリオンはこの南の地方がいまは夏の終わりであるという意識に慣れるのに苦労した。季節の変わり目はつねに不変だったから、気持ちの上でも、また肉体的にも、この世界の底では季節が逆行しているという考えを受け入れられなかったのだ。
 南へ向かう旅の途中で、ガリオンはすっぽりくるんである剣の柄の上の〈珠〉が、背中で強く左へ動くのを感じた。かれは馬を軽く蹴ってベルガラスのとなりへ行った。「ザンドラマスはここで東へ曲がったんだ」そっと報告した。
 老人はうなずいた。
「足跡を見失いたくない」ガリオンは言った。「ザンドラマスの行き先をサディが読み違えていたら、もう一度正しい道を見つけ出すのに何ヵ月かかるかわからないよ」
「われわれは熊神教のことでさんざん時間を、ガリオン。その埋め合せをせにゃならん。つまり危ない橋は渡らんほうがいいということだ」
「そりゃそうだけど、でもやっぱりここはいちかばちかでやってみるべきだ」
「わしだってそう思うさ。だが、いまのわれわれに選択権があるか?」
 ウルガ半島のごつごつした背骨を進んでいくにつれ、〈西の大海〉から突風がたてつづけに吹いてきた。秋が駆け足で近づいてくるしるしだ。突風は冷たかったが、それに混じる雨はほんのわずかだったから、旅は中断されることなくつづいた。このあたりまでくると、きたない灰色の空を背に峰の頂上を巡回する馬にまたがったマーゴ兵たちの姿がたえず目につくようになった。だが、マーゴ兵たちは慎重にダガシ族とのあいだに距離を置いていた。
 大海の沖合いにぶあつい雲がわきあがった、風の強いある日の正午ごろ、一行は丘の頂上にのぼって、けわしい岩の断崖に抱かれた入り江を見おろした。
「ウルガ湾だ」タジャクが簡潔に言って、鉛色の海を指さした。
 遠くの浜から半島が突き出て、ごつごつした岬で湾への入口を守っている。港はカーヴした岬に抱かれていた。船体の黒い船が点々と浮かぶ港から立ち上がるようにして、かなり大きな町が広がっていた。
「あれがそうですか?」サディがたずねた。  

Posted by きはらったようす at 11:54Comments(0)